〇浜本幸生文庫

◇2022年9月13日
 1.浜本幸生文庫を新設
  浜本幸生文庫を新設しました。
  浜本幸生さんは、長年水産庁で漁業法解釈を担当し、「漁業法の神様」と呼ばれた方です。
  浜本さんを初めて水産庁に訪ねたのは、1981年2月頃でした。以降,1999年11月4日に他界されるまで約20年、私の漁業権研究、
 特に共同漁業権研究の師でもありました。
  浜本さんとのお付き合いの様子は、亡くなられた直後、月刊『漁協経営』2000年2月号に寄稿した拙稿「浜本幸生さんのこと」に
 次のように記しています(拙著『海はだれのものか』より転載)。
   浜本幸生さんのこと(『海はだれのものか』より)
  浜本さんの蔵書は、浜本さんの著書を出版してこられた中島満氏(まな出版企画)と私とが御自宅で段ボールに詰め、私の研究室に保管した後、
 横浜市金沢区にある水産庁中央水産研究所内の水産資料館に送付し、「浜本文庫」コーナーに納めていただいています。
  しかし、水産資料館に納めきれなかったものや納めたけれども手持ちもあるもの等を、今後逐次、この浜本幸生文庫のコーナーに掲載していき
 たいと思います。
  漁業権・漁業法に関心を持たれている市民や研究者にとって、とても貴重で、かつ参考になるコーナーになると確信しています。

◇2022年9月17日
 1.「発電所前面海域の法的地位について」
  浜本幸生文庫の一つ目として、講演録「発電所前面海域の法的地位について」を掲載します。
  上関原発のボーリング調査をめぐり、民事調停が10月5日に予定されていますが、中電との論点を漁民・市民にも理解してもらうことが
 大事ですので、同講演録を掲載する次第です。
  この講演録は、財団法人海洋生物環境研究所での浜本さんの講演録音記録に浜本さんが手を入れられて作られたもので、昭和63年3月に発行
 されています。
   講演録「発電所前面海域の法的地位について」
  とりわけ強調されているのは、埋立等で補償する際に漁業権放棄をするのは間違いですよ、ということです。講演録には、福島原発での
 間違った(漁業権放棄を伴った)補償事例が紹介されていますが、実は、上関原発でも同様に、漁業権放棄を伴った、間違った補償をして
 いるのです(次に、上関原発での2000年補償契約書を掲げますので、第1錠に「漁業権放棄」が記されていることを確認してください)。
   上関原発での2000年補償契約書
  講演録と2000年補償契約書を比べて見るだけでも、中電が如何に漁業補償に無知であるかが分かります。
  中電の無知を皆さんが理解されることが、祝島漁民を力づけることになりますので、ぜひ比較してみてください。

◇2022年9月23日
 1.「沿岸公共事業と漁業補償について」
  浜本幸生文庫の二つ目に「沿岸公共事業と漁業補償について」を掲載します。
  この論文は、私にとって、大変懐かしい論文です。というのは、私が浜本さんを初めて水産庁に訪ねた1981年頃、浜本さんは既に関係者には
 「漁業法の大家」として知られていましたが、書かれたものは少なかったのです。その後、浜本さんの著書は何冊も出版されましたが、当時は、
 この論文が唯一のものだったはずです。
  当時、入手した論文は、出所も明確でなく、青焼き(当時のコピーは、今のコピーと違い、青焼きと呼ばれる、質の悪いものでした)だったよ
 うに記憶しています。青焼きはすぐに劣化するので、今のコピー(当時はゼロックスと呼んでいたように思います)が普及した際に、青焼きから
 コピーしました。さらに、その後、出所も記された、より鮮明なコピーを入手しました。
  以下に、懐かしい青焼きからのコピーと出所付きの鮮明コピーの両方を掲げます。
   沿岸公共事業と漁業補償について(青焼き)
   沿岸公共事業と漁業補償について(出所付き鮮明コピー)
  鮮明コピーのほうに、この論文の重要箇所二か所に黄色マーカーを付けておきました。
  一か所目は、期間制限補償の箇所です。期間制限補償の算定式は上関原発ボーリング調査をめぐる中電との論争でポイントになるからです。
  二か所目は、埋立等で漁業権が消滅する際には、漁業法・水協法の規定を働かさず、入会権の消滅として処理するのが妥当ではないか、と記
 されている部分です。この部分が、共同漁業権についての浜本説の真髄です。私が初めて浜本さんを訪ねたのも、この部分に着目したからなの
 でした(ただし、これは共同漁業権についての見解で、自由漁業や許可漁業とは関係がありません)。
  ちなみに、最高裁平成元年判決は、漁業法を全く理解しないまま、浜本説を否定する判決を出し、稚拙で間違った法解釈で漁業現場に大混乱を
 もたらしましたが、その後、水産庁は、共同漁業権の分割・変更・放棄に関係地区漁民の書面同意を必要とする法改正を行なうことによって
 最高裁平成元年判決がもたらした大混乱に手当てし、今日に至っています。
  それでも共同漁業権をめぐって裁判で争うと、当分は最高裁平成元年判決を踏襲するでしょうから、できるだけ避けたほうがいいでしょう。
  その代わりに、祝島漁民のように、現場で自由漁業を営み続けるのが最も賢明です。
  付記:9月17日に掲載したはずの「浜本幸生さんのこと」が読めない旨のご指摘を安藤公門さんからいただきました。アップロードを忘れてい
    ましたので急遽アップロードして読めるようにしました。安藤さん、ご指摘、有難うございました。

◇2022年10月3日
 1.講座 漁業法入門
  三つ目に「漁業法入門」を掲載します。「入門」という名称が付いているので、浜本幸生文庫を訪れた人になるべく早く読んでいただいた
 ほうがいい、と思ったからです。漁協経営センターや同センターの山本辰義前社長(現社長の義樹氏はご子息)のお名前が随所に登場することから、
 同センター発行の月刊誌に連載(12回)されたものと思われます。時期は、名著『水協法・漁業法の解説』(平林平治・浜本幸生著)の第1版が
 同センターから発行された1980年頃と思われます。
  ちなみに、共同漁業権についての浜本さんの見解と私の見解は100%一致しているわけではありません。浜本さんからは多くのことを学び、
 浜本さんが漁業法上の私の師であることには疑いの余地はありませんが、だからといって浜本さんに無批判に接していたわけではありません。
  共同漁業権に関する見解の違いは、いずれ詳しく説明しますが、いまその余裕がないので、簡潔に記しますと、二人とも共同漁業権が入会権的
 権利(総有の権利)であるとの説なのですが、浜本さんは、共同漁業の免許を漁協にすることによって法人たる漁協が管理権能を持つようになった
 とするのに対し、私は、法人が入会権的権利の管理権能を持つことになるはずはない、漁協が免許を受けるのは、入会集団に法人格がないので、
 入会集団の構成員が属する漁協の法人格を利用して、いわば名義人として免許を受けるだけだ、とするのです。
  いま、この違いを理解するのは困難でしょうが、浜本さんの論文を読む際、この違いを頭の片隅におきながら読むようにしてください。
   漁業法入門

◇2023年2月28日
 1.風成裁判での浜本証言
  今日掲載する「風成事件での浜本証言」は、浜本幸生文庫の中でも第一級品の資料です。
  風成事件とは、1970年代に大分県臼杵市で大阪セメントが埋立事業を実施しようとしたのを中止に追い込んだ事件です。
  風成事件は、作家松下竜一氏『風成の女たち』(1984年)で埋立を身体を張って止めた婦人たちが描かれて広く知られるようになりましたが、埋立
 を中止に追い込んだ大きな理由の一つが裁判における浜本証言(昭和47年9月25日大分地裁)だったのです。四つに分けて掲げます。
   浜本証言1
   浜本証言2
   浜本証言3
   浜本証言4
  浜本幸生さんは、原告が申請した国側証人として出廷されましたが、法廷で共同漁業権に関して、自分の信じる総有説を述べられたのでした。
  婦人たちの身体を張った行動とそれを支える法律論で埋立を中止に追い込んだ、と言えると思います。
  風成裁判での漁民側の代理人岡村正淳弁護士とは、その後、大入島埋立裁判で証人を依頼されたことから知り合い、大分地裁での証言後、
 沖縄金武町の入会裁判でも意見書を依頼されました。ちなみに、大入島埋立も中止に追い込むことができ、金武町入会裁判でも勝利しました。
  風成裁判当時、岡村弁護士は、まだ20代。年配の吉田弁護士と組まれていたとはいえ、大変な手柄だったのです。
  風成判決は、総有説に基づく正しい判決です。その後、最高裁平成元年判決が、全く漁業法を勉強しないまま社員権説にもとづく間違った
 判決を出して、今日に至っていますが、それだけになおさら風成判決は貴重なものとなっています。