〇上関原発計画(山口県)

 1.上関原発の動向
   上関原発計画は30年以上前に計画されたにもかかわらず、いまだに着工されていません。着工を止め続けている最大の力は祝島漁民が漁業補償を受け
  取っていない点にあります。
   中電は、2000年4月に共同漁業権管理委員会(祝島漁協を含む8漁協から構成されていた)と交わした補償契約に基づき上関原発に伴う漁業補償金を
  支払いましたが、7漁協は配分額を受け取ったものの祝島漁協は受け取りを拒否したため、旧祝島漁協(現在は山口県漁協祝島支店)の組合員にはまだ
  補償がなされていないのです。
   祝島漁民への補償金約10億8千万円は現在、山口県漁協が預かっていますが、この間、それを祝島支店に渡そうと画策しています。祝島支店に「補償金
  受領」の部会決議を挙げさせて、それを根拠に祝島支部に補償金を渡そうとしているのです。
   2018年3月27日にも山口県漁協は祝島支店の部会決議を挙げさせようとしましたが、部会で否決されました。
  毎日新聞(2018.3.18,上関原発補償金漁業権配分案 受け取り拒否継続へ,小中進氏提供)
  中国新聞(2018.3.28,胸なで下ろす原発反対派,氏本拓氏提供)

 2.補償金を受ける者はだれか
   しかし、そもそも漁業補償を受ける者はだれでしょうか。
   漁業補償は、埋立等の事業により権利が侵害され損害が生じるために、損害を受ける者に支払われるものです。損害が生じたら、その行為は不法行為に
  なってしまいますので、予め「事業を認めてもらう代わりに補償を支払う」という内容の補償契約を交わしたうえで事業に取り掛かるようにするのです。
   ですから、漁業補償を受ける者は、漁業を営む者です。
   漁業は、免許を受ける「漁業権漁業」と許可を受ける「許可漁業」と免許も許可も不要な「自由漁業」に分類されますが、祝島では、主として漁民個人
  が許可を受ける許可漁業や自由漁業が営まれています。許可漁業・自由漁業への補償を受ける者は個々の漁民ですから、漁協やその支店(合併前の単協を
  合併後に「支店」と呼びます)は何の関係もありません。
   他方、共同漁業は、漁協(山口県漁協)が免許を受けている漁業権漁業ですが、共同漁業を営む者は「関係地区(共同漁業権に必ず定められています)に
  住む組合員(祝島漁協の組合員)」ですから、補償を受ける者は祝島漁協の個々の組合員です。ただし、共同漁業権は入会権的権利ですので、個々の組合員
  (准組合員を含む)が個別に補償を受けずに、組合員全員から委任を受けた者が一括して補償を受け、その後、組合員全員の同意を得た配分基準に基づいて
  配分することになります。
   まとめると、許可漁業・自由漁業への補償を受ける者は、それらの漁業を営む「個々の漁民」、共同漁業への補償を受ける者は「関係地区に住む組合員全員
  から委任を受けた者」を経由して「個々の関係地区に住む組合員」ということになります。中電は、共同漁業への補償の性質を利用して、許可漁業・自由漁業
  への補償も祝島支店を通じて支払おうとしているのです。

 3.上関原発をめぐる漁業補償の問題点
   以上のことを踏まえれば、現在争点になっている上関原発をめぐる漁業補償には、次のような問題点があります。
  ①中電からの約10億8千万円の補償金を山口県漁協が預かっていることには法的根拠はない(祝島漁民からの委任状が必要)
  ②許可漁業・自由漁業への補償金の受領を決められるのは、個々の祝島漁民であって祝島支店ではない。したがって、部会決議は何の法的効力も持たない。
  ③共同漁業への補償金の受領も祝島支店の部会決議で決められることではなく、祝島組合員全員の同意を得なければ受領や配分はできない。
   上関原発に反対するうえで、祝島支店の部会決議を防いだほうがベターですが、反対運動の側、特に祝島漁民の間で、以上の①~③の認識を共有していけば、
  反対運動がより強力になりますし、いろいろな作戦も可能になるでしょう。

 4.公開質問状
   上記のように、共同漁業権は関係地区の入会集団の権利(入会漁業権)に由来する権利です。入会集団は法人格を持たないため漁業権を免許することはできない
  ので、入会集団で組合(明治漁業法では漁業組合、昭和漁業法では漁協)を創らせ、組合に共同漁業権(明治漁業法では専用漁業権)を免許するようにしたのです。
   ところが、漁協は、協同組合原則に基づく団体なので、設立自由、合併自由、加入脱退の自由を持っており、入会集団の構成員だからといって漁協に加入しなけ
  ればならないわけではありません。そのため、入会漁業権を持ちながら、漁協に属さない漁民も存在することになります。埋立等の事業者は、それらの漁民の権利も
  侵害しますから、補償しなければなりません。
   また、上関原発に伴う補償金は、2000年に支払われましたが、その後、漁業を開始した漁民も多数存在します。それらの漁民に対しても補償しなければ着工でき
  ないことはいうまでもありません。
   中電に対し、組合に属さない漁民、及び2000年以降に漁業を始めた漁民への補償をどうするのか、という内容の公開質問状を提出していますが、全く回答になって
  いない内容(2000年に共同漁業権管理委員会に補償したとの内容)の返信があっただけで、中電はいまだに回答できていません。
  中電への公開質問状(2017.11.16)
  中電からの回答にならない返信(2017.12.18)

 ・以上の2~4に関して詳しくは、東条雅之氏(映画「祝福の海」の監督)が撮影してくださった次のYou-tubeや拙著『漁業権とはなにか』を参照してください。
   YouTube:上関原発が建てられない理由
   YouTube:埋立には漁民全員の同意が必要
 ・関連して、2010年5月11日に、上京した上関原発反対運動のメンバー(武重登美子さん・小中進さん・三浦翠さんたち市民)と水産庁交渉を持った際、当時の長谷
  成人沿岸沖合課長(2018年5月現在、水産庁長官)が私見に同意されたことを記した記録を掲載しておきます。
  水産庁交渉記録(2010.5.11)
 ・上関原発の動きについては、次のホームページを参照してください。
  小中進さんのホームページ
 ・祝島の氏本拓さんから2018年4月16日に送っていただいた新聞記事です。新しいエネルギー基本計画に「原発の新増設」が盛り込まれなかったことから上関原発の
  工事再開が困難になった旨の記事です。
  中国新聞(2018.4.11,上関原発の工事再開が困難に,氏本拓氏提供)

◇2019年3月24日
  祝島の氏本拓さんが、ヒジキ、ビワ茶を送ってくださいました。とともに、山秋真さんが書かれた祝島についての記事(週刊女性2018年5月1日号)コピーも同封して
 くださいました。山秋さんに問い合わせたところ、記事がWebで公開されていることがわかりましたので、次にリンクを貼ります。
  原発マネーを拒否!「私たちの島は汚さ せない」山口・祝島、36年目の闘い
  リンクができなくなった場合に備え、リンク先記事をpdfファイルにして次に掲げます。
  「原発マネー」に抗い続ける住民たち
  2000年に埋立免許が出たものの、祝島漁民が漁業補償を受け取らないので、中国電力はいまだに着工できていません。埋立事業を実施するには、実施前に損失補償が
 必要で、漁民が漁業補償を受け取らない限り、事業を実施できないことを教えてくれる恰好の事例です。

◇2019年6月8日
 1.埋立免許再延長問題について
  毎日新聞2019年6月5日(山口東部版)に村岡山口県知事が上関原発予定水面における公有水面埋立免許を再延長することを示唆したとの記事が掲載されました。次に
 掲げます。
  毎日新聞(2019.6.5,知事 再延長許可を示唆)
  知事の再延長許可についての住民団体の申し入れ書を次に掲げます。
  埋立免許再延長についての住民団体の申し入れ書
  この埋立免許再延長問題について二点のコメントをしておきます。
 ①「事業者と民の関係」が肝腎
  第一に、埋立免許は「事業者と公の関係」においてなされる手続きであり、「事業者と民の関係」には何の関連もないということです。
  中国電力は、2008年10月22日に埋立免許を取得しました。しかし、公有水面埋立法は「埋立事業者が埋立免許を得ても埋立で損害を受ける者に補償しなければ埋立
 工事に着工できない」旨規定しています(第8条)。上関原発では、祝島の漁民が漁業補償金の受領を拒否し続けているために埋立工事に着工できないでいることは、
 この間の経緯から明らかになっています。中国電力及び山口県漁協は、なんとかして祝島漁民に補償金を受け取らせようと画策してきましたが、祝島漁民がいまだに受
 領を拒み続けているのです。
  祝島漁民が補償を受け取らない限り、埋立工事に着工できない。これは「事業者と民の関係」であり、「事業者と公の関係」において埋立免許が再延長されたところ
 で、それとは全く関連なく存在し続ける関係です。
  ですから、埋立免許がなされようが、延長されようが、再延長されようが、祝島漁民の受領拒否が続く限り、埋立工事に着工される恐れは全くないのです。
  埋立等の際に、住民団体は、「事業者と公の関係」を重視し、免許や許可や認可がなされれば事業が遂行されてしまうと考えがちですが、それは全く誤りで、重視
 すべきは「事業者と民の関係」なのです。
  わかりやすい事例を挙げると、千葉県丸山町で、ゴルフ場の開発許可が出たためにゴルフ場が建設されてしまう、とあきらめていた住民に、開発許可が出てもゴルフ
 場で損害を受ける水利権者が同意しない限りゴルフ場建設はできない旨の話をしたところ、話を伝え聞いたゴルフ場開発業者が、話の翌日にゴルフ場建設断念を発表した
 ことがあります。「事業者と公の関係」に騙されずに「事業者と民の関係」を重視することが肝腎なのです。
 ②中国電力の埋立を実施できる権利は消滅している
  第二に、中国電力が上関原発埋立を実施できる権利が既に消滅していることです。
  公有水面埋立法が「埋立事業者が埋立免許を得ても埋立で損害を受ける者に補償しなければ埋立工事に着工できない」旨規定しているのは、埋立事業により損害が発生
 し、損害を受ける者がいるからです。埋立事業により損害を受ける者と補償契約を交わし、補償を支払って、初めて損害を与える埋立事業を実施できるのです。
  ところが、中国電力と漁協等との補償契約は、2000年4月27日に交わされたものです。2000年4月に交わした補償契約で補償を支払ったのに、それから20年余り経って
 埋立事業を実施できるものでしょうか。
  もちろん、答えはノーです。2000年4月時点で漁業を営んでいた者と2019年時点で漁業を営んでいる者とがすべて一致しているはずはありません。2000年当時漁業を
 営んでいても、2019年時点では廃業したり、亡くなったりしている漁民は何人もいます。逆に、2000年当時漁業を営んでいなくても、その後漁業を営み始めた漁民も何
 人もいます。
  ですから、中国電力が今後上関原発建設のために埋立を実施するには、埋立事業実施時点において漁業を営んでいる漁民に新たに補償しなければならないのです。
  公有水面埋立法に基づくだけでも、以上のように、上関原発埋立実施には新たな漁業補償が必要と言えるのですが、さらに民法の「時効」の規定があります。
  中国電力が、漁業に損害を与える埋立事業を実施できるのは、補償契約に基づいています。中国電力が補償を支払うことと漁民が埋立を認めることの両方が補償契約
 に規定されているので埋立を実施できるのです。いいかえれば、中国電力が埋立を実施できる権利は、契約に基づいて契約の相手方に要求できる債権なのです。
  ところで、民法によれば債権の消滅時効期間は10年です(167条1項)。契約を交わしても、契約に基づく債権を10年間行使しなければ、その債権は時効により消滅す
 るのです。したがって、2000年4月27日補償契約から19年以上も経った今、中国電力が上関原発埋立事業を実施できる権利は、とっくに消滅しているのです。
  [参考]民法167条1項 債権は、十年間行使しないときは、消滅する。
  以上のことから、埋立免許が再延長されようと中国電力が上関原発埋立を実施できないことは明らかです。
  以上のように、運動の中で、何処に力を入れればよいかを知ること、「力を入れずに形だけの抗議で済ませていい問題」と「力を注いで取り組む必要のある問題」と
 を峻別することはとても大事です。さもなければ、あきらめなくてもいいのにあきらめたり、効果のない問題に力を注いで徒労感や挫折感を味わったり、力を入れる必
 要のある問題への取組みがおろそかになったりするのです。

◇2019年6月27日
 1.山口県への公開質問状
  上関原発に関する海上作業は、2011年3月以来行なわれていませんでしたが、中電が本年8月に調査を再開する動きを見せています。
  そこで、原発いらん!山口ネットワーク小中進代表から中嶋光雄県会議員を通じて山口県への公開質問状を提出しました。埋立工事や調査を実施するうえでの法的根
 拠となる「漁業補償契約書」は2000年4月27日に結ばれており、債権の消滅時効は10年だから、同契約に基づき埋立や調査を実施する中電の権利は既に消滅している、
 との趣旨の質問状です。次に掲載します。合わせて2000年4月27日漁業補償契約書も掲載します。
 漁業補償契約に関する公開質問状
 2000年4月27日補償契約書
◇2019年8月8日
 1.中国電力への申入書及び7月26日交渉
  山口県への公開質問状に関し、県は、公有水面埋立法に関すること以外答えないとの姿勢で回答が得られないため、中国電力に申入書を提出するとともに、7月26日に
 交渉を持ちました。申入書は次のとおりです。
 中国電力への申入書
  交渉は、申入書記載の次の二点をめぐって行なわれました。
  a.祝島漁民の漁業権(財産権)を侵害するボーリング調査や埋立工事を実施できる法的根拠はどこにあるのか。
  b.債権の消滅時効は10年である(民法第167条1項)から、2000年4月27日に中国電力と共同漁業権管理委員会・四代漁協等の間で結ばれた補償契約に基
   づく中国電力の埋立工事や調査を実施できる権利は、既に消滅しているのではないか。
  論点aについては、交渉開始時には、「調査海域に共同漁業権を持つ山口県漁協四代支店の了解をいただいたうえで、一般海域の占用許可を得て着手する予定」という
 回答だったのですが、交渉を通じて次のような回答が加わりました。
  ・海面占用許可を得るうえで自由漁業の漁民の同意も必要と許可権者(山口県知事)がおっしゃれば、許可が得られるような努力をしたい。
  ・ボーリング調査の海域で自由漁業を営む漁民が居れば、ご協力たまわるように、方法についてはここで言えませんが、お願いする。
  論点bについては、中電の顧問弁護士が「2000年補償契約に基づく権利は消滅していない」と言っている、との回答でしたが、「根拠なしに結論だけ言われても納得で
 きるはずがない」と反論すると、「根拠については担当部署に確認して小中さんに電話で伝える」との回答を得られました。
 2.中電の回答
  論点bについての中電の回答は、8月1日に小中さんになされました。次のとおりです。
 中国電力の回答書
  ここにも展開すれば、次のようです。

   回答
   中国電力回答:漁業補償契約は、現在も当然に有効であり時効消滅していない事については、申入れ時にご説明したとおりです。当社の弁護士が判断した理由を説明
  するようにとのご要望を伺いましたが、当社の弁護士によると契約の当事者ではない方に対し個別の契約の解釈や内容について説明すべきではないとの指導がありまし
  たので、これ以上の回答を差し控えます。
   漁業補償契約の法解釈を確認するための申し入れであるとの、ご要望も伺いましたが当社としては、原子力発電をはじめとする当社事業に対する、ご意見を伺う場と
  理解しており今後も個別の契約や法解釈について申し入れとして対応をする考えはありません。

  これでは、根拠を示すどころか、逃げているだけであり、納得できるはずがありません。根拠を示せないので逃げている、と言われても仕方のない回答といわざるを得
 ません。
  今後、中電がボーリング調査のための「一般海域の占用許可(海面占用許可)」を知事に出せば、その際、山口県・中電と本格的な論戦をすることになります。